素多亜珈琲店


新宿伊勢丹の西向にある珈琲店
ぼくが東京に住み始めることになって、はじめて見つけて通った珈琲店
だれに聞いたわけでもなく、
なんとなく友だちと「あそこが気になる」と、入った珈琲店
東京を離れて、関西に戻ってからも時間があるときは、
ふらふらと伊勢丹の横に行き、珈琲を飲んだものでした。
といっても、仕事での東京。
銀座や五反田周辺での仕事が多いため、なかなか新宿までは行けず、
一年に一度も行けていない有様でした。
が、去年から、何度か新宿に足を運ぶ機会があり、
ふらふらいそいそと素多亜珈琲店へ向かうのですが、
計3回、すべてシャッターが下りている。
定休日だっけな。時間が早かったかな。
と考えつつの三回目に、「オーナーも歳だし」と、
閉店したのだとがっかり肩を落して、関西に。


ここのオーナーとは、ちょっと不思議な感じのつながりを感じていました。


意味もなく直感で飛び込んだその日、
おそらく60手前であろう彼が、まじまじとぼくを見ている。
声はかけない。ただ、うまいモカを煎れてくれただけだった。
まあ、特徴のある顔だから、こういうこともたまにあるので気にもせず、
その日は帰りました。


それから数日、今度はひとりで素多亜珈琲店のカウンターに腰かけました。
すると、
「先日、はじめていらしていただきましたね?」
とオーナー。
「よく覚えておいでですね」
とぼく応えると、
「はい。はっきりと覚えております。
 実は、わたしの友人にそっくりなんです。
 わたしの友人なので、もういい歳なんですが、
 彼の若い頃に本当にそっくりで。
 しかも、彼が故郷の関西に帰るという日に、
 お客様がいらしたもので、驚いて声もかけられず、
 という有様でした」
とおっしゃるではありませんか。
「ぼくも関西から来ました!」
ぼくもすっかり驚きました。
「そうですか…! 不思議なご縁があるものですね。
 こういうことがあるんですね」
とやさしく笑って、モカを煎れてくれました。


それから約4年よく通いました。
東京を離れるときも、やさしく声援を送ってくださいました。
ゆるやかで、あたたかい声が好きでした。
もう、あのカウンターでお会いすることができないのかと
東京に行くたび、淋しく過していました。


が、こないだお遣いでエヴァンを買いに伊勢丹へ寄ったとき、
だめもとで通ってみると張り紙が、
「3/13、3/14は、連休にさせていただきます」
…また行けなかったけれど、
つぎがあってよかった。閉めてなかったんだと、ほっとあたたかくなりました。


少しは無理して、新宿まで顔を出さなくちゃ。